そうだ 家、建てよう(4)

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老舗のF社か、営業力ありげなE社か。俺と妻は話し合った。

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俺の見解はこうだ。
F社は確かに靴がピカピカだった。それは大事なことだし、真面目で信頼できそうだ。ただ、ちょうどマンションを探している社長がお客さんにいるという話がどこまで当てになるのか疑問だ。そんな金持ちの社長なら、駅直結のタワーマンションとか新築を買うのではないか、もしその社長が買わなかったら、他の客にこの金額で売る当てはあるのか。査定額は2,880万円と最も高額だったが、根拠は平米単価だけであることも気になる。
一方、E社は名刺を忘れるし宅建も持っていないが、営業力はありそう。軽さが気になるが、押しが強そうなのでぐいぐいと売ってくれそうな感じがした。また、2,680万円という現実的な金額設定と、この金額なら確実に売れるという自信を見せていたので任せても良い気がした。

妻の意見はこうだ。
E社は確かにぐいぐい行ってくれそうで、ああいうタイプが何だかんだ言って売るのが上手いかもしれない。ただ、名刺を忘れるなんて、しかもすぐに取りに行かずにポストに入れるなんて、営業マンとしてどうなのかと。宅建も持っていないし。
一方、F社は宅建を持っている。そして何と言っても靴がピカピカ。それだけでは本当にできる人かは決められないけど、そういうところは大事だと。確かにその社長が買ってくれるとは限らないが、やはり老舗の強みとして、不動産物件を探すとなったらまずはF社に聞いてみようという人は未だに多いんじゃないか、特に社長クラスになると信頼のある老舗に頼むだろうから、そっちの線も期待できると。

お互いの意見を述べあった結果、俺がそこまでE社を推すなら俺に任せると妻が言ってくれたので、E社に頼むことにした。ただし、真夜中に書いたラブレターは必ず翌朝読み返せという鉄則に従い、結論を一晩寝かせることにした。

妻と話し合った結果、俺の推すE社に依頼することになったが、一晩寝かせて翌朝の通勤中に改めて考えてみた。
そもそも、宅建を持っていない不動産会社の営業マンってどうなんやと。

ネットで調べてみると、宅建を持ってないなんてあり得ないという意見がある一方、そんものなくても関係なく売れる人は売れるという意見もある。
ただ、E社の人は肩書きが営業部長。それで今まで宅建を取る機会が本当になかったのか。大前提としてまずは取得しようと思わなかったのか。営業部長なのに。

そう考えると、名刺を忘れたというのは作為的なものだったのではないか。っていうか、名刺を車に忘れるって不自然じゃね?うちに来る前にも何ヶ所か客先を訪問しているはずなのに、名刺を鞄じゃなくて車にしか置いてないってあり得なくね?宅建持ってないのが真っ先にバレるの恥ずかしいから、わざと名刺を出さなかったんじゃないの?
穿った見方かもしれないが、そんなことを思わざるを得ないのである。

翻って、老舗のF社に落ち度はあっただろうか?いや、ない。
査定額も一番高いし、宅建も持ってるし、靴もピカピカだった。だのに何故F社に決めきれないのか。引っかかっているのは、査定額が根拠も無く高すぎるのではないか、というところだ。
確かに平米単価30万円で計算するとぴったしだ。だが、それだけが根拠だと不安だ。本当の本当はいくらで売れると思っているのか聞いてみたい。そして、査定額の根拠も詳しく知りたい。というわけで、一夜にして方針転換して、E社はやめて老舗のF社にしたいと思い始めた。ただし、聞きたいことが色々あるので、F社にはもう一度来てもらって、不安を取り除いてくれるなら契約することにした。
早速、次の日曜日にアポを取った。

当日、注目されているとは知る由もなく、ピカピカの靴でF社の人がやって来た。
そこで、査定額の根拠を改めて聞く。
平米単価だけではなく、周辺の相場や間取りなどから考えての2,880万円であり、最終的な落とし所としても、2,700万円では売れるだろうとのことだった。その言葉は信用できると思えたので、そのままF社と契約することにした。

不動産会社との契約には、専任媒介契約と一般媒介契約がある。
この辺りは、妻が凄く良く調べてくれて、俺は妻に教えてもらったのだが、ざっくり言うと、専任媒介契約というのは、F社とのみ契約し、F社しか販売できないというもの。つまり、売れれば確実にF社に仲介手数料が入る。一方、一般媒介契約というのは、F社と契約しても、他の会社とも契約することができ、契約した会社はどこでも販売することができる。つまり、他の会社で売れれば、F社には仲介手数料が入らない。
不動産会社からすれば、広告に経費をかけても他社に取られれば一円にもならないリスクのある一般媒介契約よりも、当然、専任媒介契約が良いに決まっている。
ところが、売主からすれば、どうせ仲介手数料を払うんだから別にどの不動産会社で売れようが知ったこっちゃない。それよりも、手広く宣伝して、我が物件の存在を世間に知らしめたい。
なので、売主にとっては、一般媒介契約が良いと言われている。

例えるならば、一個のスイカを店頭の棚に置いて、3人で店番をしているとしよう。お客さんがやって来て、「スイカ売ってくれ」と3人のうちの誰かが声をかけられ、お客さんにスイカを渡したら、お金はスイカを渡した人のものになる。これが一般媒介契約。

店番Aがスイカの専任媒介契約を結んでいる場合は、「スイカ売ってくれ」と声をかけられたのが店番Bであっても、「おーい、店番A、お客さんがスイカ売って欲しいってさ!」と言って、店番Aが奥から出て来てお客さんにスイカを渡し、お金を受け取る。こんな感じだろうか。

不動産会社にとっては、広告費をかけて宣伝しても、他社が販売してしまうかもしれない一般媒介契約はおいしくないので、真剣に販売活動してくれない恐れがある。また、専任媒介契約であってもネットに掲載されれば誰でも検索して見つけることができるので、一社としか契約できないデメリットというのはないに等しいのではないか。
そう思ったので専任媒介契約にした。
ただし、万が一同じマンションの人からこの部屋を売って欲しいと直接コンタクトがあった時のことを考えて、専属専任媒介契約にはしなかった。専属専任媒介契約というのは、自分で買主を見つけても契約した不動産会社を通してしか販売できない、最も縛りのキツい契約である。

こうして、晴れて我がマンションが市場にデビューすることになった。

odorukame

町田康と内田万里とモーモールルギャバンが好きです。 InstagramとTwitterをやっています。 odorumachizoです。

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